「男女のちがいは、優劣とは関係ないの」がっかりした私の気持ちを見透かすように、Bは言った。
「性差は、女性の賃金が安いことの説明にはならないわ。 それは社会的な問題だもの。」

男の子とちがうからといって、女の子が大統領になれないわけでもない。 ただ男女のちがいは、脳の働きをより深く理解するうえで役に立つのよ」その典型的な例が、先天性副腎皮質過形成(CAH)である。
これは遺伝的な欠損のせいで、胎児期の脳に大量のアンドロゲンが流れこむことで起こる。 コルチゾールを作る酵素が不足して抑制がきかなくなり、副腎でアンドロゲンが過剰に分泌されるのである。
女の胎児だと、男性ホルモンであるアンドロゲンを必要以上に浴びることになる。 重症だとクリトリスが小さなペニスほどに肥大して、外科手術や薬による治療が必要になる。

軽症の場合は、行動に明らかな特徴が現われる。 P大学でこの病気を研究しているS・Bによると、CAHの女の子は3歳ごろから、いわゆる女の子らしくない行動が出てくるという。
遊戯室に子どもだけを入れて慎重に観察すると、CAHの女の子はお人形や家具には目もくれず、消防自動車やダンプカーなど、男の子向けとされるおもちゃを手に取る。 脳に性差ができる厳密な時期はまだ判明していない。
女性ホルモンは、胎児期でないときでも脳のちがいを作りだしている。 М大学のJ・Bは、女性の一生を通じて、性周期のたびにエストロゲンがドーパミン量を変動させていることを突きとめた。
数年前には、各種ホルモンが成人でも脳の構造を変えているという研究結果が報告された。 メスのラットが発情期に入ってエストロゲンが増えると、海馬の樹状突起がわずか4日のあいだに増えて、また減るのである。
正確な原因はわからない。 ラットは短い期間に交尾をしなければならないから、オスを求めてなるべく遠くまで出かけ、また巣に戻ってくるために、海馬を使う記憶能力を強化するのだという推論もある。

そして最近、ベビー・ニューロンというまったく新しい発想が出てきた。 数年前に相次いで出た報告を前に、神経科学界はそれまでの教義を取りさげなくてはならなかった。
要するに、脳はおとな(この場合は思春期を含む)になっても、新しい神経細胞の生産を続けているというのである。 少なくとも海馬ではそれが確認されたし、おそらくほかの領域でも同様だろう。

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